平成29年度国立大学法人佐賀大学入学式告辞
本日、入学式を迎えた新入生の皆さん、佐賀大学を代表して皆さんの入学を心から歓迎いたします。また、この4月より本学で学ぶため、海外から留学してきた交換留学生の皆さんにも歓迎の意をお伝えしたいと思います。
そして、ご臨席頂きましたご家族の皆様には、万感の思いで本日を迎えられたことと存じます。これまで新入生を支えてこられた皆様に敬意を表するとともに、今日の入学を無事に迎えられましたことを心よりお慶び申し上げます。
併せて、平素より本学を篤くご支援頂いている佐賀大学同窓会をはじめ関係者の皆様にも、御礼を申し上げます。
本日より、新入生の皆さんにとって今後の人生の糧となる大学生活が始まります。慣れない環境への不安を覚えながらも、新たなフィールドに飛び出す期待と意欲に満ちた皆さん一人ひとりの眼差しを肌で感じることができ、嬉しく、また頼もしく思います。
皆さんの期待に応える教育を行うこと、その責任を全うすることへの決意を、教職員一同改めてこの胸に刻んでいるところです。
さて現在、我が国は1千兆円もの負債を抱え、さらに東日本大震災、熊本地震からの復興、少子高齢化やグローバル社会への対応など課題が山積しています。世界的にも東アジア諸国との良好な外交関係の構築、環太平洋戦略的経済連携協定や基地問題を中心としたアメリカへの対応、さらに終わりの見えないテロリズムへの恐怖など、皆さんの将来を取り巻く環境は決して楽観できるものではありません。誰も想像しなかった苦難が起こりうる不確実性の時代となりました。
しかし、大学生活は皆さんの視野を格段に広げ、潜在能力を引き出し、苦難を乗り越えるための叡智を養う機会を提供します。是非、佐賀大学が備える教員養成、芸術、経済学、医学、理学、工学、農学に加え、本学の強みであり、今後の社会に必要不可欠となるICT分野の教育研究資源を余すことなく活用し、各自が想い描いた目標を達成すべく、研鑽を積んでほしいと思います。
ここで皆さんが新生活を始める佐賀について、少しご紹介しておきましょう。地元出身の入学生も多いと思いますが、改めて聞いてほしいと思います。
佐賀は「葉隠」発祥の武士道に立脚した地というだけでなく、「陶祖」李参平が有田にて日本初の磁器を焼成してから実に400年もの間、脈々とその技術を伝え、有田焼や伊万里焼、唐津焼など日本を代表する伝統工芸品へと昇華させた文化?芸術にも造詣の深い土地柄です。
さらに幕末?明治維新期には、佐賀の七賢人に代表されるように教育、工学、医学、法学、外交など、様々な分野に優秀な人材を多数輩出する人材養成の先進地でした。
特に医学分野では多くの先見性ある医師を世に送り出しており、中でも東京大学医学部の母体であるお玉ヶ池種痘所を設立した伊東玄朴らが有名です。玄朴は佐賀県神埼市に生を受け、長崎でシーボルトに師事し、最新の西洋医学を身につけます。そして感染性が極めて高く死亡率が約50%にも達するなど、世界中で猛威を振るっていた天然痘に対して牛痘接種による予防法を導入、その普及に努めました。
江戸時代の日本において、牛痘種痘法はケダモノである牛から病的材料を体内に取り入れるという、旧来の医療とは余りにかけ離れた施術であり、民衆にとっては受け入れがたいものでした。同じく大阪で普及に努めた緒方洪庵は、報酬に金銭を支払ってまで牛痘種痘法を行ったと伝わるほどです。
しかし玄朴らの地道な努力によって牛痘種痘法は徐々に浸透し、1885年の種痘接種の義務化を経て、1956年以降には日本における天然痘の患者発生がゼロとなり、その後WHOから天然痘の世界根絶が発表されるに至るのです。
牛痘種痘法を発明したイギリスのエドワード?ジェンナー、その後普及に努めた玄朴、楢林宗健ら多くの医師の尽力により、人類が天然痘を克服した瞬間であったと言えるでしょう。
本学はこうした先達の偉業に敬意を表し、改めて佐賀を人材養成の拠点にしたいと考え、「佐賀の歴史に誇りを持ち、文化度が高く、芸術的素養のある、かつ社会の変容に対応できる多様性に富む人材の育成」を目標に掲げました。
折しも平成30年という明治維新150年の記念すべき年を間近に控え、県内では、幕末から明治にかけて活躍した郷土の先人たちの偉功を顕彰する様々な取組が開催されます。佐賀県が主催する「肥前さが幕末維新博」はその最たるものになるでしょう。
本日入学される皆さんには是非この機会に、それぞれの専門教育とともに、皆さんの学びのフィールドとなる佐賀の歴史についてもしっかりと学び、先人たちの想いを受け継ぎ、佐賀の地で学ぶことに誇りを持ってほしいと思います。
もう一つお伝えしたいのは、変化し続ける社会への対応力を身につけてほしいということです。
国家存亡の危機に直面した幕末期、それまでの習慣を覆し、新たな文化文明を取り入れ、さらに自分たちの手で発展させる。明治日本の近代化を支えた郷土の偉人たちは、信念をもって変革を成し遂げました。現代に生きる私たち佐賀大学は、その信念を受け継いで佐賀を、日本を支える人材を輩出したいと考えています。
本日入学された皆さんには、本学の想いを体現する存在として、是非この環境を皆さん自身が肌で感じ取り、6学部を有する総合大学の利点を最大限に活かして、専門性の異なる友人をつくって互いに交流し、多様性を涵養しながら自由な発想で勉学に励むことを期待しています。
特に全学部、全学生を対象とするICT教育においては、地元自治体?企業との連携により昨年10月に開設した「マイクロソフト?イノベーション?センター」をはじめ、あらゆる分野に応用可能なICT技術を修得できる環境整備を行っています。第4次産業革命を迎える新時代の到来を見据え、皆さん一人ひとりが能動的な学びを行えるよう、これからも教育?研究の環境整備を進めていきます。
本学は皆さんを学生生活のあらゆる面でサポートしていきます。何か困った事があれば本庄キャンパスの学生センター、鍋島キャンパスの学生課まで気軽に相談してください。
皆さんが有意義な学生時代を送り、社会へと雄飛することを心から願っています。
本日は、誠におめでとうございます。
平成29年4月4日
国立大学法人佐賀大学長 宮﨑 耕治
このページのトップへ